竜馬がゆく

 司馬遼太郎『竜馬がゆく』を読み終えた。本屋に並んでいる『坂の上の雲』と比べると、前者の方がやや幅を取っているようなので、これまでの人生の中で読んだ一番長い小説だったと思われる。実に5ヶ月以上もかけたが、一字一句、じっくり楽しみながら読んだ。死ぬまでには読んでおかねばと思いつつ、四十を過ぎてしまったが、せめてこのタイミングでも読んでおいてよかった。龍馬は満31歳で落命したからそれまでに読んでおくのが理想であり、確かに日本男児たるもの、読んでおく価値のある司馬遼太郎の傑作だろう。実はそんなことを中学高校の先生の推薦書として聞いたのだが、そんな若い子が読むような本でもない。せめて大学生、いや社会人になってから読むのが適当と思われる。司馬も四十近くになって執筆しており、読者層に子供を想定していたとは思えない。けっきょくのところ、小説を楽しむという意味では今の年で読むのが最適だったのかもしれない。竜馬に倣って人生をやり直せるような年ではないが。さて、坂本龍馬。自分が高校生の時に使っていた日本史の教科書を開いてみると、薩長同盟と大政奉還のところに出てくるものの、世間で騒がれているほどの偉大さを感じさせられるような記述は何もない。坂本龍馬、何者ぞと長年思い続け、ゆえにいずれはこの本を読まねばと思っていたわけだが、2010年のNHK大河ドラマ『龍馬伝』を見て、概要は掴むことができたものの、この本の随所で受けた衝撃にはとても及ばない。ドラマでも「命は使わねば」と描かれていたが、小説の中もで竜馬はそう生きていた。そして時運、時勢などということばが頻繁に出てくる。「時運をいちはやく洞察してそれを動かす者こそ英雄」とも本人が書き残している。これまで家庭を持たぬ人生など考えられなかったが、この小説を読んで初めてそういった人生の選択もあることを思い知らされた。しかしながら僕はもう家庭を持ってしまっており、放り出すわけには行かない。この男の出現は、列強による植民地支配から免れ、明治維新によって近代国家建設に至った日本にとって奇跡と呼ぶべきことかもしれないが、竜馬はともかく龍馬は実在した一人の人間である。比較的裕福な土佐郷士の冷や飯食いという立場が幸いしたのかもしれない。そんな奇跡の男、北辰一刀流免許皆伝の剣客が、大政奉還を実現させた1ヶ月後、数人の刺客に斬殺される。最後の方で司馬はこう書いている。「暗殺などは、たとえば交通事故とすこしもかわらない。暗殺者という思慮と情熱の変形した政治的痴呆者のむれをいかにくわしく書いたところで、竜馬とはなんの縁もない。」確かにそうかもしれない。近江屋での一件さえなければ日本はどうなっていたのかと常々考えていたが、あの竜馬がそこまで生き長らえたことさえ奇跡だし、 坂本龍馬暗殺は日本史における大事件でもなんでもない。天命と信じ彼がそこまで何を考え、何をやってきたかが重要なのである。命とはそんなものである。いずれこの小説を読み返す日がくるだろうか。何度でも読みたいが、僕もいつ命を落とすか分からない。
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